「エコサイド」という言葉を聞いたことがありますか?
英語でecocideと書きます。前半のecoはご存じの通り「環境」を意味し、日本でも環境に優しい商品や行動を「エコな○○」と表現しますよね。後半のcideの「殺害」を意味し、例えばhomicide(殺人)、suicide(自殺)、genocide(集団殺戮)といった単語に登場します。つまり、「エコサイド」を直訳すると「環境を殺すこと」で、環境を破壊する行為を意味することになります。
「エコサイド」は米国の生命倫理学者アーサー・ガルストン(Arthur Galston)が1970年に提唱した造語と言われています。1998年の国際刑事裁判所(ICC: International Criminal Court)設立に際しては、ICCの管轄対象犯罪を定めるローマ規程(Rome Statute)にエコサイドを含めるべきという声もあったものの合意が得られず、以来国際法におけるエコサイド犯罪の認知を求める運動が続いています。
エコサイド法制化運動を推進する国際団体Stop Ecocideが2021年に招集した独立専門家パネルは、「エコサイド」を以下の通り定義し、ローマ規程への追加を求めています。
“ecocide” means unlawful or wanton acts committed with knowledge that there is a substantial likelihood of severe and either widespread or long-term damage to the environment being caused by those acts
(筆者試訳:「エコサイド」とは、環境に対して深刻かつ広範又は長期的な損害を与える可能性が高い行為であることを知りながら行う、違法または無謀な行為を意味する)
国際法に関するキャンペーンに加え、国レベルでエコサイド禁止を法制化しようという運動もあり、私が住むスコットランドでも、エコサイド法案(Ecocide (Scotland) Bill)という議員立法法案がスコットランド議会に提出され、この秋にはネットゼロ・エネルギー・交通委員会で審議が始まります。
野党議員が発議する議員立法が成立しにくいのはスコットランドも同じですが、エコサイド法案を提出したモニカ・レノン議員(Monica Lennon MSP)は、過去に「生理用品無料提供法(Period Products (Free Provision) (Scotland) Act)」という議員立法を全会一致で成立させ、世界初の画期的な試みと注目を集めた実績があり、今回も超党派の支持を集めての法案提出に成功しています。
とは言え、現在の議会会期は2026年春に終わり、5月には解散・選挙となってしまうため、それまでに審議が終了しなければ、法案は白紙に戻ってしまいます。残された短い期間で成立に漕ぎつけることができるかどうか、前途多難ではありますが進捗状況に注目したいと思います。
