“President”がいつも「大統領」とは限らない(1)〜 EUの話

アメリカ大統領選挙、長かったですね。投票日は11月3日(火)でしたが、人口も面積も世界3位の大国である上、今回は空前の投票率。郵便投票が多かったこともあって開票・集計に延々と時間がかかり、世界中がニュースチャンネルに釘付けで見守る中、土曜日にやっと「当選確実」の報道がありました。

それを受けてニューヨークやワシントンD.C.など米国各地で支持者が歓喜の声を上げる様子や、各国首脳からジョー・バイデン氏へのお祝いのメッセージをTwitterで眺めていたのですが、その中でこんな報道が目にとまりました。

バイデン氏当選確実 各国の反応 中国国営メディアも速報
2020年11月8日 9時23分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201108/k10012700731000.html

NHKが各国首脳のメッセージをまとめた記事です。ふんふんと読んでいたのですが、あれ?と途中で引っかかりました。

ミシェル大統領? 誰だっけ? EUに大統領なんていたっけ?

 

EU’s Presidents

EUには大統領はいませんが、Presidentという役職は複数存在します。

  • President of the European Commission

European Commissionは、EUの三権のうち行政府、EUの内閣に相当する機関です。日本語では欧州委員会と訳され、その長であるPresidentは委員長と訳されています。現在の委員長はUrsula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)で、初の女性委員長として話題になりました。EUのトップというとこの欧州委員会委員長を指すことが多いのではないでしょうか。前任者はJean-Claude Juncker(ジャン=クロード・ユンケル)。

  • President of the European Parliament

European Parliamentはもちろん欧州議会、EUの立法府です。議会なのでそのPresidentは議長と訳されます。現職はDavid Sassoli(ダヴィド・サッソーリ)、前任者はAntonio Tajani(アントニオ・タヤーニ)ですが、どちらもあまり一般にはなじみのない顔かもしれません。

  • President of the European Council

European CouncilはEU全加盟国の首脳で構成されており、日本語では欧州理事会と呼びます。理事会の会合では加盟国の首相や大統領が一堂に集うため、英語の報道ではよく”EU summit”と呼ばれています。このサミットで全体的な方向性・方針を首脳の間で合意し、それを欧州委員会が具体的に政策として実施していくというイメージになります。理事会のトップもPresidentという役職名ですが、日本語では理事長ではなく議長と訳されています。加盟国元首の上に立って理事会を代表する存在というよりは議事進行役の立場にあるから、ということでしょうか。議長はCharles Michel(シャルル・ミシェル)。NHKが紹介していたのはこのミシェル議長の祝賀メッセージでした。前任者のDonald Tusk(ドナルド・トゥスク)は、ブレグジットについて辛辣なコメントを繰り返して英国でも有名だった人物です。

  • Presidency of the Council of the European Union

これだけでもややこしいのに、EUにはさらにCouncil of the European Unionという機関もあります。日本語では欧州連合理事会。紛らわしいことこの上ありません。単にthe Council(理事会)として出てくる場合、上記のサミットのことではなくこちらを指します。こちらは加盟国の閣僚が集まる場で、欧州議会と同じく立法権を持つ機関です。どの閣僚が参加するかは、討議する法律分野によって変わります。理事会には固定のPresidentは存在しませんが、加盟国が輪番制で半年間議長国を務めるという制度になっており、Presidency of the Council of the European Unionと呼ばれます。現在の議長国はドイツで、来年1月からはポルトガルに交代します。

  • Presidents of the Court of Justice of the European Union

三権分立の行政府と立法府があるなら当然司法府もあります。Court of Justice of the European Unionは日本語では欧州連合司法裁判所。EUの最高裁であるCourt of Justice(司法裁判所)と一審裁判所であるGeneral Court(一般裁判所)に分かれており、それぞれにPresidentがいて、長官と訳されます。

というわけで、EU関連の話を訳していてPresidentという言葉が出てきたら、数あるEUのPresidentsのうちどの人を指しているのかを確認して適切に訳す必要があるのです。

 

機械翻訳にかけてみると?

試しに無料オンライン機械翻訳サービスではどう処理するか、見てみることにしました。結果は続きをご覧ください。

“President”がいつも「大統領」とは限らない(1)〜 EUの話” への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です