翻訳者に必要な能力として、常々言っているのは
- ソース言語(和英翻訳なら日本語、英和翻訳なら英語)の読解能力
- ターゲット言語(和英翻訳なら英語、英和翻訳なら日本語)の文章作成能力
- 扱い専門分野知識
- 調査能力
で、これはもちろん全部必須だと思うわけですが、それに加えて
- 想像力
というのがわりと大切なんじゃないかな?と思うことがあります。
それは、原文を読んでいてよく理解できないところをフィーリング訳でそれっぽい文章にまとめる創造力のことではありません(前述の通り、読解能力と分野知識は必須なので、読んでよく理解できないというのはそれ自体が問題)。
原文を読む時には、原文を書いた筆者の立場に立ってその意図を汲む想像力。
訳文を書く時には、訳文を読むことになる読者がどんな人達で何を求めているのかを考える想像力。
先日翻訳者のFacebookグループで「翻訳の品質を客観的に評価することは可能なのか?」という話題が出たのですが、究極的に翻訳の品質を判断するのは読者だと思うのです。もちろん読者は原文と訳文を比較して正確かどうかを確認することはしないし、したくてもできないことが多いわけですが、読者が訳文に求めていたものがその訳文から得られたなら、読者は良い翻訳だと思う。そういうことです。
人が文章を書く時には、通常、想定する読者が存在します。何かの目的で、想定した読者に何かの情報を伝えるために文章を書くわけです。
が、翻訳の場合、訳文の読者が原文筆者が想定していた読者とはかなり違う場合がよくあります。
日本語の文章ならたいていは日本語の読める読者を想定するので、基本的には日本人で、日本の文化や仕事の仕方をよく知っているという暗黙の前提に基づいて文章を書くわけですが、日本では誰でも知っていて当たり前なことが英国では全然当たり前ではないというケースはたくさんあります。
また、日本人にとって読みやすい文章の構成やスタイルと、英国人にとって読みやすい文章の違いなんていうものも存在します。
さらには、原文は専門家向けに書かれているが、訳文の読者は原文の想定読者ほど専門知識が無いといった場合もあるかもしれません。原文は本国では知らない人がいない超有名なブランドに関する文章だが、日本にはまだ進出していないためほぼ無名、というケースも考えられます。
だから、原文を100%正確に(正しい訳とは何かというのも大きな命題ですがそれは置いておきます)間違いなく忠実に訳しても、それだけでは訳文の読者にはピンとこない、あるいは使いにくい、読みにくいという結果になることもあり得るわけです。
そこで、「筆者は◯◯という読者を想定してこう書いたが、訳文の読者は△△なので、ストレートに訳しただけでは筆者が意図した通りには伝わらないだろう」という判断をし、筆者が意図した伝わり方をする訳文を書く工夫をするために必要なのが、想像力なのではないかなあと思った次第です。