6月18~19日に宮城県仙台市で開かれた第27回英日・日英翻訳国際会議(IJET-27)に参加しました。仙台に行ったのはこれが初めて。昔から一度は行ってみたいと思いながら機会がなかった町なので、参加することに迷いはありませんでした。
宮城県はもちろん東日本大震災で被災した県のひとつで、今回のIJETのテーマ「復活」もそれを反映しています。あれから5年が経った今、市内中心部には震災被害の痕跡はありませんでしたが、IJET会場の国際センターの向かいにある仙台城趾を散策すると、本丸跡へと上る急な坂道の途中あちこちに、震災後の様子やその後の修復工事の記録を残す表示板がありました。
今回は木曜夕方に現地入りし、金曜日のプレIJETプログラムから参加しました。まず午後はJATLAW SIG(日本翻訳者協会法律翻訳専門部会)のミーティングで、前半は作業効率向上に役立つワードマクロツールの紹介、後半は時間管理や顧客獲得などのヒントをシェアするインフォーマルな内容でした。その夜の前夜祭は、震災で被災したという仙台港のキリン仙台工場併設のレストラン「ビアポート」が会場で、満員の大型バス2台を連ねて繰り出す盛況となりました。昨年ヨークのIJETに参加して1年ぶりに再会した人も多く、「実行委員長だった去年と違って今年は気楽に参加できるね」といろいろな人に声をかけられました。実際には今回はスピーカーとしての参加だったので講演の準備に追われ、前夜祭後も二次会参加はあきらめて、パワーポイントファイルに手を入れて夜を過ごす羽目になってしまったのですが…。
土曜日に始まったIJET本会議の基調講演では、東北弁でシェイクスピアを演じる地元の劇団「シェイクスピア・カンパニー」が登場しました。震災後に被災地での公演に乗り出したという劇団の活動を主宰の下館和巳教授が軽妙な語り口で紹介し、続いて劇団の役者さんたちが舞台に登場してレパートリーから抜き出した名場面を上演するという、今までにはなかった試みでした。
今回のIJETは220人が参加する大規模なイベントで、午後からのメインプログラムは5セッションが並行で進行するという盛り沢山の内容。どれに行くのかを選ぶのが大変でした。
基調講演に引き続きメインプログラムも、翻訳・通訳の専門分野やビジネス面についてのセッションの他に、震災復興に関連するものがいくつかありました。私が参加した講演で特に印象に残ったのはそのひとつで、会津電力株式会社の副社長、山田純氏の「Why are we doing this? ― Renewable energy venture in Fukushima」というセッション。サステナビリティと企業社会責任を専門分野のひとつにしている私にとって、再生可能エネルギー事業は仕事でも扱うことの多いテーマです。会津電力は、震災をきっかけに地域の電力事情について初めて知った地元の人達が、脱原発、再生エネルギー転換、電力の地域自給自足を目指して立ち上げたベンチャー企業です。現在は48カ所の太陽光発電所で小規模分散型発電を行っているそうです。再エネ発電の事業拡大を阻む日本の電力政策の現状などについても、興味深い話を聞くことができました。今後は会津の豊かな自然を活かした多様な再生エネルギー発電や、付加価値事業として生産電力を使ったワイン生産などにも意欲的に取り組んでいくとのことで、翻訳者の会議で講演することにしたのは、会津電力のこうした活動について国際的に情報を広げていく手助けをしてほしいため、とのことでした。
・喜多方ワイナリー計画紹介ビデオ: https://youtu.be/05KQnF0hhT4
土曜夜のネットワーキングディナーは、駅前のIJET-27提携ホテル、ホテルメトロポリタン仙台が会場で、過去のIJETでもトップを争うのでは?という豪華なご馳走が並び、東北の地酒テイスティングコーナーもありました。ただ、ふと気が付くとデザートがきれいになくなってしまっていて、他の人が食べている美味しそうなケーキを眺めるだけに終わってしまったのが残念でしたが…。
日曜日は私の担当セッションで幕を開けました。「あなたの腱鞘炎・腰痛・肩こり対策は間違っていませんか?〜長く続けられる仕事のやり方を考える〜」というトピックで、一昨年から昨年にかけてアルク社ウェブサイトで連載した「コンピューターで仕事をする人のためのRSI対策ガイド〜肩こり、腱鞘炎、頸肩腕症候群…仕事を続けるために知っておきたいこと〜」を再構成した講演です。IJETの前に東京、大阪でも同じ話をしたのですが、その時は2時間枠をぎりぎり使って話した内容を、IJETセッション枠に合わせて半分に削らなくてはならなかったため、メインポイントだけに絞ったダイジェスト版になってしまいました。
幸い、日曜日最後のクリス・ブレイクスリーさんのセッション「Lifestyle Translation: The Road to Nirvana」では、私の講演からカットしたスタンディンクデスクやヨガなどの話題も取り上げられていたので、偶然ながらちょうど良い組み合わせになりました。
同じく日曜日には、J-Net仲間グウェン・クレイトンさんの「A Lawyer’s Approach to Legal Translation」というセッションにも参加しました。私は契約書を中心とした法律翻訳もレギュラーに扱っているのですが、法学を学んだ経験も法律事務所に勤務した経験もないので引け目を感じることもあります。弁護士でもあるグウェンさんが伝授する、法律専門家の視点から見た法律文書翻訳の考え方についての話は、とても勉強になりました。また、JATLAWのネットワーキングランチでは、現在ISOで法律翻訳に関する新規格の検討が始まっていることなど、耳新しい業界情報も聞くことができました。
今回のIJETは私にとっては8回目。実は大勢の人が集まるイベントは苦手でネットワーキングの機会にも尻込みしがちなのですが、回を重ねるにつれて知った顔も増えてきました。次はオハイオでの開催とのことで行くのは難しそうですが、2018年の日本開催の時にはまたぜひ参加できればと思っています。