英国翻訳通訳協会(ITI)・全米翻訳者協会(ATA)で発行しているクライアント啓蒙活動用の冊子 “Translation: Getting It Right – A guide to buying translations” の日本語版製作プロジェクトをここ半年進めていたのですが、ようやく完成しました!
後援団体のひとつである日本翻訳連盟(JTF)のホームページにPDF版を置いていただいていますので、ご自由にダウンロードしてお使いください。以下のリンクから直接アクセスできます。
また、印刷版の製作作業が現在進んでおり、出来立てほやほやを11月28日(水)に開催されるJTF翻訳祭会場に置いていただけることになっています。多めに用意しますので、何部でもお持ち帰りください。
このプロジェクトがスタートしたのは今年4月。きっかけとなったのは、東北観光博の誤訳問題でした。震災復興支援のために企画された観光庁のキャンペーン「東北観光博」の英・中・韓国語訳が、自動翻訳システム(Yahoo!翻訳のシステムの専用版です)によって提供されており、あまりに誤訳が多くて修正が追いつかないため外国語提供ページが一時閉鎖に追い込まれたことがニュースで取り上げられ、Twitterの翻訳者クラスタでも炎上したという一件です。
Twitterでの会話はTogetterにまとめてありますが(東北観光博機械翻訳騒動~翻訳者の視点)、その中で出てきたのが「やはり翻訳業界がクライアントの啓蒙に取り組むことが大切」という声でした。それを受けて、ITI・ATAのクライアント教育用ガイドブックである “Translation: Getting It Right – A guide to buying translations” の日本語版を作ろう!と思い立ち、作業を開始したのが4月末。その時は6月初めのIJETでの発表を目指していたのですが、さすがに時間がなくて果たせず、翻訳祭でのデビューになりました。
“Translation: Getting It Right” 初版が発行されたのは2002年。それからもう10年が経っており、欧州各国語版も製作されています(リストはこちら)。実はITIの日本語会員の間でも2007年に日本語版を作ろうという動きがあったのですが、その時は思うように協力が得られず立ち消えになってしまったという事情があります。今回の再挑戦では、5年前とは日本の翻訳業界の状況が大きく変わってきていると感じました。JAT、JTF両団体の後援を得ることができたのも、翻訳を取り巻く状況について業界全体で危機感が強まっていることが背景にあると思います。
「翻訳で失敗しないために〜翻訳発注の手引き」は、タイトルにもある通り、翻訳を発注するクライアントに読んでもらうことを念頭に書かれています。厳しい環境の中だからこそ、「翻訳というプロセスを正しく理解し賢く利用することで対費用効果を上げる」というこの冊子のメッセージを、翻訳を利用するクライアント側に伝えていくことが大切だと思います。翻訳関係者の皆様、どうか普及にご協力をお願いします。