翻訳業界関連4団体の共同声明

2023年12月11日付で、以下の4団体から注意喚起の共同声明が発表されました。

 お知らせ   近年、「簡単に翻訳者になることができる。⾼収⼊を得られる」などの宣伝⽂句で受講者を集める翻訳の学校、講座等が出現し、「宣伝内容と実際の講座等の内容が異なる。宣伝内容に虚偽が含まれていた」などの理由で、受講者と業者との間のトラブルに発展した事例が報告されています。   さらに、近時、「AIを使った翻訳なので語学⼒不問で翻訳者になれる」と宣伝する翻訳の学校、講座等が出現し、同様のトラブルに発展することが危惧されています。  「AIを使うと語学⼒不問でプロの翻訳者になれる」という宣伝⽂句の根拠はまったく⽰されていません。   AI翻訳(機械翻訳)の品質は、プロの翻訳者から⾒るとまだ⼗分とは⾔えません。原⽂と訳⽂を⽐較して、訳抜けや誤訳、不⾃然な表現を⾒つけて修正する作業が必要です。これをポストエディット(機械翻訳の後編集、「MTPE」)と呼びますが、ポストエディットをするには、原⽂と訳⽂の両⽅を理解する語学⼒が⽋かせません。⾼性能な機械翻訳や⽣成AIを使っても、それだけでは商品価値のある翻訳はできません。   また、実際の翻訳の現場では、通常の翻訳案件はもちろんのこと、「ポストエディット」案件でも、情報漏洩等の観点から⼀般に公開されている機械翻訳エンジン(Google翻訳、DeepLなど)の使⽤が禁⽌されている場合が少なくありません。   このような事実に反し、そのような学校、講座等では「AIの便利な機能を使うとパッと簡単に翻訳ができる」という、実際の翻訳作業およびポストエディット作業とはかけ離れた指導が⾏われていることを⽰唆する宣伝もされており、業界への悪影響が懸念されています。   こうした宣伝⽂句を安易に信じ込んでしまう前に、現職の翻訳者に相談するか、翻訳学校などについてもっと情報を集めるようにしてください。   また、受講者に対し、講座の内部情報を⼀切開⽰しないこと等を承諾させ、これに違反した場合に⾼額の違約⾦を⽀払うことを約束させる「同意書」に署名させているとの情報も寄せられています。もちろん、講座等の内容を転載するなどは著作権法で禁⽌されている⾏為です。しかし、講座等の内容や契約その他の不当性等について、受講者が国⺠⽣活センター(消費⽣活センター)や弁護⼠、業界団体等の然るべき者に相談するなどの⾏為は著作権法上も妨げられていません。もし、講座等の内容や契約その他の不当性等を相談するなどの⾏為が、同意書に反する(違約⾦が発⽣する)かのような⾔辞を受けた場合や、不当と思われる違約⾦を要求された場合には、安易に応じることのないようにご注意ください。まずは⽇本翻訳者協会・詐欺まがい講座対策委員会(連絡先メールアドレス:sagimagai@jat.org)にご相談ください。   皆様には⼗分ご注意いただきたく、お知らせいたします。  なお、英語版を作成する場合は⽇本語版を正とします。  令和5年(2023年)12⽉11⽇ 特定⾮営利活動法⼈ ⽇本翻訳者協会(JAT) ⼀般社団法⼈ ⽇本翻訳連盟(JTF) ⼀般社団法⼈ ⽇本会議通訳者協会(JACI) ⼀般社団法⼈ アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)

ここ数年日本では、主にLINEを使って「英語力がなくても翻訳家になって高収入を得られる」などと宣伝する翻訳スクールが問題になっていました。中には履歴詐称や翻訳トライアルの不正といった手口を指導する悪質なケースもありました。また、高額講座なのに内容がひどすぎると受講料の返金を申し込んでも無理な解約条件を課されて泣き寝入りした受講生も続出するなどトラブルも多く、私も含め多くの翻訳者がソーシャルメディアなどを通じて問題喚起してきました。

さらに最近は、生成AIブームに便乗して「AI翻訳なら出てきた和訳文のてにをはを直すだけ、語学力は不要」などと謳う講座も登場し、また被害が広がっています。機械翻訳の導入は実際に翻訳業界でも進んでいますが、声明にもあるように、こうした講座が教える内容は現実とはかけ離れています。

今回の共同声明は、こうした問題を受けて広く注意を喚起するために発表されました。日本の翻訳業界関連団体が連名で声明を発表するのは異例のことです。業界全体で対応する姿勢を示したことを歓迎したいと思います。この記事を読んだ方も、情報の拡散にご協力いただけると嬉しいです。

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