ロンドンの空気が変わった

私は趣味がサルサダンスなのですが、コロナ対策のロックダウン中は、もちろん全国のサルサイベントが中止され、1年半はまったく踊りに行けない日々でした。しかしこの夏ロックダウンが解除されて、秋に入るとぽつぽつとイベントが再開されるようになりました。英国でサルサのメッカといえばロンドン。というわけで、私もここしばらくはかなり頻繁にロンドンに旅行しています。

ロンドンはダンディーに引っ越す前に住んでいたので馴染みのある土地ですが、またロンドンに通うようになって、以前とは大きく変わったことがひとつあるのに気づきました。

車道を往来する自動車が静かなのです。特に信号待ちのアイドリングの音や、信号が変わって自動車が一斉に発進する時に上がるエンジン音が、大きく減っています。よく見ると、いつの間にかハイブリッド車やプラグインハイブリッド、そしてバッテリーEVが増えています。そういえば交通量が多い道路の排ガスの悪臭も、以前ほどひどく感じません。

ロンドンでは2019年春に市内中心部にULEZが導入され、この秋には市を囲む環状道路の内側全体に拡大されました。ULEZとはUltra Low Emission Zone(超低排出量ゾーン)の略。その名の通り、自動車の排ガスによる大気汚染を抑える目的で導入されました。欧州排ガス規制の基準に基づき、ガソリン車はEuro 4、ディーゼル車はEuro 6への適合が必要です。適合しない車両もULEZ内走行を禁止されているわけではありませんが、1日£12.50(約1900円)の料金を支払わなければなりません。低排出車両が急速に増えているのはそのためでした。

ロンドンでは従来から市内中心部に乗り入れる車両に対して1£15のCongestion chargeという一種の渋滞税が課されており、低排出車両に対してはこれを免除するという形で排ガス削減を進めていました。2017年にはこれに加えてEuro 4に適合しない車両にT-charge(toxicity charge)という料金が課されるようになり、それに代わるULEZの導入と拡大で排ガス対策がさらに強化されたことになります。

ロンドンの大気汚染は長年深刻な問題でした。二酸化窒素濃度が法律で定められた上限をはるかに超える状態が続き、特に交通量の多い道路沿い地域の住民が健康被害に苦しんでいます。特に2013年にエラちゃんという女の子が喘息のため9歳で亡くなったことで問題が注目されるようになり、昨年末にはエラちゃんの家族の運動が実って、裁判所によりエラちゃんの死亡診断書に死因が大気汚染であると記載することが認められました。幸い、ここ数年の対策の結果、ロンドンの大気汚染もやっと改善が進んでいるといいます。

英国政府はネットゼロ政策の一環として、2030年にガソリン・ディーゼル車の新車販売を禁止し、2035年にはハイブリッド車も禁止すると発表しています。エンジン音と排ガスがすっかり減ったロンドンを歩きながら、2030年以降はロンドンだけでなく他の都市でもこんな状態が見られるようになるんだな、と楽しみになりました。

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