コンピューターで仕事をする人のためのRSI対策ガイド 【7】

コンピューターで仕事する人のためのRSI対策ガイド 肩こり、腱鞘炎、頸肩腕症候群…仕事を続けるために知っておきたいこと

【連載 第7回】デスク&チェアを見直す(続)

(2)デスクとチェア:応用編

前回は標準的なデスクとオフィスチェアで構成されたワークステーションで気をつけるべき注意点を紹介しましたが、在宅で働いている場合は、ワークステーションの構成をもっと柔軟に変えることも可能です。

椅子の前傾

高橋さきのさんのチェア
高橋さきのさんのチェア

長時間座って仕事をする人にとって、大きな悩みのひとつが腰痛。腰痛防止に良いチェアを探し求めてアーロンなどの高級オフィスチェアに投資した人、バランスチェアを試したという人の声も聞きます。

腰痛防止には、前回書いたように「正しい姿勢を椅子でサポートする」という発想でチェアを調整するだけでもかなり改善ができます。アンケートでは、「前傾のきつい椅子が腰痛に効果的」という回答を複数いただきました。

私の椅子は座面傾斜の調節範囲が狭いのでクッションで傾斜を足していますが、座面を前傾させた椅子を使っているという翻訳者の高橋さきのさん、井口耕二さんから写真を提供していただきました。

井口耕二さんのチェア
井口耕二さんのチェア

井口耕二さんのコメント:

椅子の座面を前傾で固定すると体が軽く反るような形になるので、腰痛防止に効果があります。慣れない人だと座面から滑り落ちると感じるくらい前傾させられれば、そのほうがいいと思います。

前に体重をかけると前傾するタイプもありますが、体を反らして背もたれに体重の一部を支えてもらう形にならないので、あまりよくないと感じます。

バランスチェア(ニ?リングチェア、※1)も原理は同じで、座面が強く前傾しているため背筋が伸びる構造になっています。ただ、膝を曲げ体重を脛で支えるので、長時間使っていると膝や脛が痛むという声を多く聞きます。そのため仕事に利用している人は比較的少ないようですが、腰痛対策として長年愛用している方からは、足を床に置いて「前傾がきつい椅子」として使っているとの話も聞きました。また、細かい調節ができない製品も多いので、体に合うかどうかを確認してから買うことが特に重要です。

椅子に座らないという選択

近年、長時間座り続ける生活の危険がクローズアップされるようになりました。2006年には英国で、プログラマーが12時間連続のコンピューター作業後に静脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)で倒れたというニュースがありました(※2)。

また2012年には、座って過ごす時間の長さと寿命に相関性があり、運動をしていてもそれは変わらないというかなり衝撃的な研究結果が出ています(※3)。そのため、椅子に座ってコンピューター作業をするのをやめる人が増えてきています。

バランスボールに座る

前回私が使っているチェアの写真を掲載しましたが、その背後にバランスボールが転がっていたことにお気づきでしょうか?実は、このバランスボールの方が私のメインチェアなのです。バランスボール導入後しばらくはオフィスチェアも併用していましたが、半年過ぎた今、椅子はほとんど使っていません。

バランスボール導入のきっかけになったのは、技術翻訳者の大越正浩さんのブログでした。腰痛が長年の悩みだった大越さんは、通っている整体院で腰痛対策にバランスボールを使ったトレーニングをすすめられ、ちょうどオフィスチェアが買い換え期になっていたこともあり、椅子として使ってみることにしたそうです。その体験談を紹介します。

大越正浩さんのバランスボール体験談:

当初は新しいオフィスチェアを買ってバランスボールと併用していくつもりだったのですが、今のところほぼバランスボールだけで、もう1年以上使用しています。使っているボールは65cmのものです。

一番大きな効果は腰痛が軽くなったこと。以前は半年に1回くらい、腰椎に痛み止めの注射を打ってもらっていたのですが、これが現在不要になっています。

しっかりと坐骨の上に腰椎を立てる形で座るのが、やはり腰にはいいようです。体幹の筋肉が強くなったことも、いい影響を与えていると思われます。この座り方は坐禅のときの座り方と同じで、上半身を完全に脱力することができるので、デスクに対する高さをうまく調節すると、肩・首まわりに力を入れずにキーボードを叩けます。集中力も高まるので、仕事の効率アップの効果もあります。

反面、体幹を支える腰回りの筋肉は常時ある程度「使っている」状態なので、長時間座りっぱなしだとそれなりに疲労し、姿勢が崩れて背中や肩・首に凝り、痛みが出てくるので、適宜休憩を入れるのは必須ですね。

最近は最初から椅子として使うことを前提にしたバランスボールやキャスター付きの台等も登場しているようです(※4)。

スタンディングチェアで座り立ち

IJET-25のセッションや『通訳翻訳ジャーナル2015年冬号』(イカロス出版)の健康維持法特集でご存知の方もいると思いますが、医薬翻訳者の森口理恵さんは立ち机派。立ったまま腰を掛けて自由に動くことができるサドル型の椅子を、10年以上愛用しているといいます。

森口理恵さんの立ち机体験談:

森口さんの立ち机と椅子
森口さんの立ち机と椅子

普通の椅子だと足を組んでしまうので、それを避ける目的で2000年頃にバランスチェアを買ったのですが、何時間も使っていると脛が痛くなるのと、腰痛の原因になったので(椅子に座った状態で腰をひねって動作しようとしたため)やめました。立った姿勢で座れるStokke社(現Varier社)のMoveという椅子(※5)を2003年に取り寄せ、スタンディングデスクを作りました。

立って仕事をすることを考えたのは、腰痛対策が第一です。座ってあれこれしようとするから腰に負担がかかるのだと思い、立って働くことを思いつきました。運動不足も感じていたのですが散歩をする時間もなく、立って働けば運動になるかもと思ったのがきっかけです。「指揮者と画家に長生きが多いのは、立って仕事をするかららしい」と聞いて、ああそうかもと思ったことも覚えています。人と違ったことをするのが好きなので、面白そうだからやってみようという軽い気持ちで始めました。

なお、サドル型の椅子には普通のオフィスデスクで使う高さのものもあります(※6)。鞍にまたがるような座リ方で正しい姿勢をサポートします。

椅子は使わず立ち机だけで作業

IT翻訳者で串刺し検索ツール「かんざし」作者の内山卓則さんは、前述の「通訳翻訳ジャーナル」の特集に触発されて立ち机を導入したそうです。感想を伺いました。

内山卓則さんの立ち机試行体験談:

内山さんのありあわせ立ち机
内山さんのありあわせ立ち机

今後も末永くこのスタイルで行くかどうかまだ分からないため、これまで使っていた机の上に、小型の折りたたみテーブルとメタルラックを乗せ、その上にディスプレイ2台、キーボード、マウスを置く形にしています。新たに購入したものは一切なく、ありあわせのものを組み合わせて使っています。

仕事中は基本的に立ちっぱなしで、立っている時間は平均7~8時間ほどです。座るのは、印刷した訳文に赤ペンを入れる時や、休憩時くらいです。

立っている中で、多少は姿勢に変化を付けるようにしています。たとえば、画面の文章を読んだり、頭の中で考え事をしたりといった間に、スクワットや腰回しをしたり、壁に寄りかかったりすることもありますし、紙の原稿を読むときには、横に置いた台で踏み台昇降をすることもあります。また、足元には竹を置いていて、キーボードを打ちながら青竹踏みができるようにしています。

立ち仕事にしてから頭と体の両方が程よく疲れて夜の眠りが深くなったように感じられます。人によって合う合わないがあると思いますので、最初はなるべくお手軽な形で試してみて、すぐに元に戻せるようにしておくとよいのではないでしょうか。また、立ち仕事でも座り仕事でも、キーボードやディスプレイの高さが合っていないと体に負担がかかるという点は同じなので、そこは要注意だと思います。

トレッドミル(ウォーキング)デスク

DYIトレッドミルデスクの例
DIYトレッドミルデスクの例

アメリカの企業では、従業員の健康対策として、歩きながら作業できる立ち机を導入したところもあります。忙しくて運動する時間がない人でも、仕事しながら運動できて一石二鳥というわけです。

高価な専用デスクも販売されていますが(※7)、自宅用にマシンと棚などを組み合わせて自作している人も増えているようです。

組み合わせて変化をつける

しかし、最近は専門家の間から、バランスボールチェアやスタンディングデスクも、必ずしも体に良いことばかりではないという意見が出ています。背もたれがない状態で長時間姿勢を保つ負荷や、長時間立ち続ける弊害も考慮する必要があるというのです。

いずれにしても問題は長時間同じ姿勢を続けることであり、座り机でも立ち机でも、重要なのは休憩を頻繁に入れて姿勢を変え、体を動かして、静的負荷で緊張した筋肉をほぐすことだ、というのが現在の結論のようです。

私自身は、前述のバランスボールと立ち机を併用しています。

コンピューターを使う際はバランスボールに座って腰をぐらぐら揺り動かしながら作業。ハードコピーでの訳文チェックや資料読み、余暇の読書の時には、整理ダンスを立ち机として使います。その際ついでにサルサのトレーニングも取り入れ、爪先立ちで浅いスクワットをしたり、バランスボードの上で片足立ちしたりしています。

トレッドミルデスクにも興味があり、スペースが確保できればやってみたいと思っていますが、いずれにしても立ち机と座り机の併用スタイルは続けるつもりです。

著者の仕事スペース
私の仕事スペース。写真左側のタンスを立ち机にしています。下の円盤はバランスボード。

今回のキーポイント:
選択肢はいろいろありますが、どれを選んでも同じ姿勢を長時間続けないことが大切。

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