コンピューターで仕事をする人のためのRSI対策ガイド 【6】

コンピューターで仕事する人のためのRSI対策ガイド 肩こり、腱鞘炎、頸肩腕症候群…仕事を続けるために知っておきたいこと

【連載 第6回】デスク&チェアを見直す

仕事場の土台となるデスクとチェア

今回から数回にわたってワークステーションの構成を詳しく取り上げ、RSIの予防・軽減のためにどんな点に気をつけるべきかを考えていきます。まず今回は、仕事場の土台となるデスクとチェアです。

(1)デスクとチェア:基本編

高さ調整の3つのステップ

前回紹介したアセスメントや厚労省ガイドラインのチェック項目から高さ関係のものを抜き出すと、下から上の順に以下のようになります。

◎ワークステーションの高さについて3つのチェック

1 足裏全体が楽に床につくこと。

2 キーボードに手を置いた時、ニュートラルな入力姿勢(後述)になること。

3 ディスプレイの上端が目の高さであること。

以上のステップを踏んで順番に確認していきます。ステップ1は椅子の座面の高さを調節すれば良いのですが、ステップ2の条件を満足させるには、椅子が1の条件を満たした状態でデスクの高さを調節しなければなりません。ここが問題で、日本では事務机のサイズがJIS規格で定められており、高さを調節できないデスクが多いのです。

デスクの高さの規格

オフィスデスクの規格には、戦後まもなく導入された旧JIS規格と、昭和40年代に施行された新JIS規格があり、デスクの高さは旧JIS規格で740mm、新JIS規格では700mmとなっています。旧規格の方が高いのはアメリカのサイズをそのまま持ち込んだからで、日本人には高すぎたため、日本人の体型に合わせた新規格に改訂したのだそう。現在では、日本製のオフィスデスクはほとんどが新JIS規格の700mmデスクだと思います。なお、日本オフィス家具協会(JOIFA)という団体が2年ほど前に高さ720mmの新規格を導入していますが、まだ少数派のようです。

さて、「新JIS規格は日本人の体型に合わせたもの」と書きましたが、具体的には「昭和40年代の成人男性の平均身長である168cmの人が紙を置いて筆記するのにちょうど良い高さ」になっています。しかし、それは言い換えれば

  • 身長が168cmではない人の体には合っていない
  • 書き物机の規格なので、コンピューターを置いて使うことは想定していない

ということになります。日本人成人女性の平均身長は158cm強ですから、168cmに合わせたデスクは、女性にとってはかなり高め。身長168cmぴったりの人にとっても、キーボードを置いて入力するには実は少し高すぎるのです。逆に背が高い男性には低く感じられるでしょう。

ニュートラルなキーボード入力姿勢

デスクの高さが体に合っているか確認するには、上のステップ1で椅子の高さを調節してから、キーボードの上に手を置いて、以下のポイントをチェックしてみてください。

◎キーボード入力姿勢についての5つのチェック

  • 肩が上がっていないこと
  • 上腕は胴に沿っていること(腕をだらんと下げた時とほぼ同じ位置)
  • 肘の角度は直角または少し開き気味であること
  • 前腕は水平か、手の方が少し下がり気味であること
  • 手首がほぼ真っすぐな状態であること

この5つのポイントをすべて満たした状態が、どこにも不自然な緊張がないニュートラルなキーボード入力姿勢。肩から腕、手にかけて筋肉に静的負荷がかかるのを防止するための重要チェックポイントです。

上腕が胴に沿っていないなら、キーボードの配置を動かして調整してください。キーボードに手を置くと肩が上がったり、肘を深く曲げた状態になるならデスクが高すぎるので、5項目すべてが満足できるようになるまでデスクの高さを下げてください。高さを調節できないデスクなら、代わりに椅子の座面を上げて、ニュートラルなキーボード入力姿勢になるよう調節します。

デスクに合わせて椅子の座面を上げたら、今度は1の項目を満たせなくなってしまう人も多いと思います。その場合は、足が宙に浮いたりつま先立ち状態にならないよう、フットレストを置いて支えます。両足裏全体が余裕で載る大きさのものを選びましょう。

座面を上げてもまだデスクが高すぎて2の項目を満足できない時は、

  • もっと高く座面を上げられるチェアに変える
  • 高さを低く調節できるデスクに変える
  • デスクの下にキーボードトレイを取り付けてキーボードの高さを下げる

という対策が考えられます。なお、キーボードトレイについてはキーボードの回で詳しく取り上げたいと思います。

逆に背の高い人が低すぎるデスクを使うと、チェアも低くなりすぎて膝が上がってしまったり、キーボードが低すぎて入力しにくく、つい前かがみになってしまう問題があります。高めのデスクまたは調節可能なデスクに変えるか、しっかりしたブロックをデスクの足の下に置いて高さを上げてみてください。

ディスプレイの高さも忘れずにチェック

こうして1と2の項目を同時に満たせるようになったら、最後にステップ3でディスプレイの高さを調節します。

ディスプレイ自体の高さ調節範囲は限られているので、スタンドの下に台を置いて高さを調整するケースが多いでしょう。PCの本体がちょうど良い高さならそれでも良いですが、高さが合わないなら、代わりに電話帳を積む、しっかりした空き箱を台にするなど、最適な高さになるよう工夫してみてください。また、ディスプレイアームを使うと望む高さにぴったり合わせることができます。ディスプレイの上端が目の高さに揃っているかどうか自分では分かりにくいので、他の人にチェックしてもらうか、写真やビデオを撮って確認してください。

なお、キーボードやディスプレイは製品によって高さが異なるため、別の製品に変えた時にはまた上記のステップを踏んで調整し直す必要があります。

正しい座り方とは

仙骨・尾骨 坐骨

せっかくワークステーションの高さを体に合わせて調整しても、その体が正しい姿勢で座っていなければ、効果は激減してしまいます。

坐骨という言葉を聞いたことはありますか?英語では”sitting bones”または”sit bones”と呼んでいますが、骨盤の底の尖った部分のことです。

この坐骨と腿の付け根、そして両足で体重を支えるようにして座るのが正しい姿勢。しかし作業を続けていると背中が丸まって体重が後ろに下がり、仙骨・尾骨の上に体重が載った状態になってしまうことがよくあります。この姿勢は腰痛の原因になり、また肩も丸まって頭が前に突き出た姿勢になってしまうので、肩や首にかかる負荷も大きくなります。

左:骨盤が傾き、尾骨の上に体重が載っている 右:坐骨の上に座った正しい姿勢
© 2014 Ceunen et al. (modified, lincensed under CC BY 4.0)
※外部サイトにリンクします。
左:骨盤が傾き、尾骨の上に体重が載っている
右:坐骨の上に座った正しい姿勢

正しい姿勢で座るには、意識的に姿勢を保つことも重要ですが、正しい姿勢を支えるように椅子を調整することも必要です。以下の点を確認しましょう。

  • 座面の角度
    少し前傾しているのが理想で、椅子に体重のすべてを預けるのではなく、おしりと足で分担して体を支える感覚で座ります。座面の角度を調節できない椅子でも、くさび形のクッションやバランスクッションを使えば角度を補正できます。
  • 背もたれ
    背もたれの腰の部分が腰の自然なカーブに沿うように張り出したデザイン(ランバーサポート)になっていると、背中が丸まりにくく、正しい姿勢を保ちやすくなります。背もたれにランバーサポートがない場合は、別にランバーサポートクッションを買って付けることもできます。いわゆる重役椅子のような背もたれが高い椅子では、背もたれの形に沿って肩が丸まったり、頭が前に出てしまうこともあるので、事前に確認しましょう。
  • 座面のサイズ
    大ぶりの椅子だと、背が低い人には座面の奥行きが深すぎて、背もたれに腰が付かない場合があります。背もたれに仙骨が当たるよう深く座った時に膝の裏が座面の前部に当たらないサイズを選んでください。
  • アーム
    高級なエルゴノミックチェアでは肘掛けの高さや角度を調節できますが、アームが固定式の製品の方が多いので、肘掛けが体に合っているか確認することが重要です。ちょうどよい高さに自然に肘を支えてくれるなら良いのですが、高すぎて肘を載せると肩が上がってしまう、肘掛けがデスクに当たってデスクに十分近づけないといった問題がある場合は、むしろアームのないタイプの方が良いでしょう。
  • デスク下のスペース
    デスク下のデッドスペースを有効活用しようと物を置く人も多いと思いますが、デスクぎりぎりに寄って座っても足を自然な位置に下ろせる奥行きと、自由に椅子を動かせる幅の確保は必要です。

オフィスチェア

おすすめの椅子を教えてほしいと聞かれることがあるのですが、人によってどの椅子が体に合うかは違います。そのため、買う前になるべくショールーム等で試し座りして、座り心地はどうか、体に合うよう微調整できるかどうかを確認してから選ぶことをおすすめします。

ちなみに私はイケアのオフィスチェアを使っていますが、写真のように背もたれにはランバーサポート補強用のクッションと座面を前傾に補正するくさび形クッションを括りつけて調整してあります(長年使って少々潰れてしまいましたが)。

今回のキーポイント:
体をワークステーションに合わせるのではなく、ワークステーションを体に合わせる。

次回はデスクとチェアの応用編です。

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