【連載 第5回】仕事環境のチェックをしてみませんか?
RSI対策の最初の一歩は「ワークステーション・アセスメント」です。
ここで言う「ワークステーション」とは文字通り「仕事をする場所」のこと。デスクとチェア、コンピューターと周辺機器、さらには照明や冷暖房などまで含めた仕事場のことを指します。体に余計な負荷がかからない仕事環境になっているかどうかをチェックするのがワークステーション・アセスメントで、特にRSI予防対策として重要です。
私がRSI治療を受けていた当時に住んでいた英国では、このワークステーション・アセスメントは雇用主に対して法律で義務づけられていました。英国に限らず、欧州指令(※1)によりヨーロッパ全体で規定されているものです。
VDU指令とDSE規則
ワークステーション・アセスメントを義務付けているのは、”Council Directive 90/270/EEC of 29 May 1990 on the minimum safety and health requirements for work with display screen equipment”、通称”VDU Directive”(VDU指令)と呼ばれている指令です(VDUはVisual Display Unitの略)。
コンピューターの普及によって急激に増えたRSIの防止対策として施行されたのですが、「コンピューター機器」ではなく「ディスプレイ・スクリーン機器」という定義になっているのは、「スクリーンを見ながら入力作業を行う」というコンピューター作業の他に、ビデオを使った遠隔監視や医療検診の画像診断検査など、入力よりスクリーンに長時間注視する作業が中心になる業種についてもカバーするためです。
英国ではこの指令は” The Health and Safety (Display Screen Equipment) Regulations”、通称”DSE Regulations”(DSE規則)という名前で立法化されました。
VDU指令/DSE規則は、雇用主に対し「通常業務の中でディスプレイ・スクリーン機器の使用が日常的に大きな部分を占める者」のワークステーションが最低要件を満たすよう、必要な対策を講じることを義務付けるものです。この「最低要件」は指令の別表という形でまとめられています。
ワークステーション・アセスメントをやってみよう
それでは英国HSEのチェックリスト(下記リンク参照)を使って、実際にワークステーション・アセスメントをやってみましょう。
なお、このアセスメントは本来自己チェックではなく、評価担当者がアセスメント対象者の仕事場の様子を見てチェックするものです。ですから、できれば同僚や家族、友人などに頼んで実際に仕事をしているところをチェックしてもらうのが理想的。しかし在宅フリーランスの場合はなかなかそうもいかないかもしれません。
その場合は、仕事をしている様子を5?10分ほどビデオ撮影して、自分で確認すると良いでしょう。カメラを真横に置いて、できれば座った全身とスクリーンが入るように撮影します(距離が確保できず全身が無理なら、腰から上でも可)。ビデオを意識せず、いつもの姿勢で作業しているところを撮影してみてください。
英国HSEのDSEワークステーション・チェックリスト:
http://www.hse.gov.uk/pubns/ck1.pdf
※外部サイトにリンクします。
※英国Open Government Licence v3.0にもとづき、以下に内容の抄訳を掲載しています。
(http://www.nationalarchives.gov.uk/doc/open-government-licence/version/3/)
※外部サイトにリンクします。
(1)キーボード
- スクリーンとキーボードが分離式になっているか?(ラップトップでの作業は原則禁止)
- キーボードの傾斜を調節できるか?
- 楽な入力姿勢を取ることができるか?
- 入力テクニックは正しいか?(手首を上に曲げていないか、キーを叩く力が強すぎないか、指を無理に伸ばしていないか等)
- キーに印刷されている文字は鮮明で読みやすいか?照り返しはないか?
(2)マウス、トラックボールなど
- 作業に適した機器を使っているか?
- 体の近くに置いて使っているか?(腕を伸ばさずに使えること。使っていない時は手を離す)
- 手首と前腕がサポートされているか?(デスク表面、リストレスト、椅子の肘掛け等)
- 使いやすいスピードでスムーズに動くか?(可動部の汚れ、デスク表面が滑るなどの問題がないか)
- ポインターの動作速度や精度を調節できるか?
(3)スクリーン
- 文字が鮮明で読みやすいか?(スクリーンが汚れていないか、文字色と背景色は適切か)
- 文字サイズが読みやすいか?(必要に応じ表示サイズを調節)
- 画面にちらつき等がないか?
- スクリーン仕様は適切か?(細かい作業が多いなら大型スクリーンを使用)
- 明度とコントラストを調節できるか?
- スクリーンの高さと角度は調節できるか?
(4)ソフトウェア
- 作業に適したソフトウェアを使っているか?(ストレスにならない使いやすいソフトを使用。レスポンスが遅いソフトは問題)
(5)デスク、チェアなど
- 作業に十分なデスク面積があるか?(不要なものは別の場所に動かす)
- 作業に必要な機器等に楽に手が届くか?(頻繁に使うものほど近くに寄せる)
- デスク表面は照り返しや映り込みがないか?
- 椅子はぐらつかないか?
- 椅子の背もたれの高さと角度は調節できるか?
- 椅子の高さは調節できるか?
- 椅子にキャスターがついているか?
- 椅子は正しい姿勢を保てるよう調節してあるか?
- 椅子の背もたれは腰を支えているか?
- 足裏全体が床に付いているか?(必要に応じフットレストを使用)
(6)環境
- 姿勢を変え身動きできるスペースがあるか?
- 照明は作業に適した明るさか?(眩しくなく、暗すぎない)
- 湿度や空気の質は不快でないか?
- 室温は快適か?
- 不快な騒音はないか?
(7)環境
- 上記以外にコンピューター作業時に問題はないか?
- コンピューター作業に起因する不快な症状があるか?
- 視力検査は受けているか?
- コンピューター作業から定期的に離れているか?(休憩またはコンピューターを使わない作業を挟む)
厚生労働省ガイドライン
以上は英国で使われているチェックリストの内容ですが、日本でも同様の規定はないのかというと、実はちゃんと存在します。厚生労働省が2002年に発表した「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」、通称「VDT作業ガイドライン」です(VDTはVisual Display Terminalの略)。
ただし、こちらは欧州指令と違ってあくまでも「ガイドライン」なので、雇用主に実施義務はありません。10年以上前からあるにもかかわらずあまり知名度が高くないのもそのためかもしれません。内容は概ね欧州VDU指令・英国DSE規則の規定と同様です(※2)。
独立行政法人労働安全衛生総合研究所(JNIOSH)が、このガイドラインをわかりやすくまとめた「パソコン利用のアクション・チェックポイント」というリーフレットを発行していますので、参考にしてください。
JNIOSH「パソコン利用のアクション・チェックポイント」:
http://www.jniosh.go.jp/oldsite/old/niih/jp/gyouseki/result/pc_check/pdf/pasokonriyouno.pdf
※外部サイトにリンクします。
最後に、コーネル大学人間工学研究所所長のアラン・ヘッジ教授が公開している「コンピューター作業の際の正しい姿勢」という写真を掲載しておきます。これもアセスメントの参考にしてください。
© Professor Alan Hedge, Cornell University, USA
(http://ergo.human.cornell.edu/ErgoTips2002/home.html)
※外部サイトにリンクします。
次回からは、デスク、チェア、スクリーン、キーボード、マウスなどワークステーションの各構成要素について、RSI対策という観点から詳しく考えていきたいと思います。