コンピューターで仕事をする人のためのRSI対策ガイド 【4】

コンピューターで仕事する人のためのRSI対策ガイド 肩こり、腱鞘炎、頸肩腕症候群…仕事を続けるために知っておきたいこと

【連載 第4回】あなたの筋肉疲労度は、どのレベル?

RSIとてんぷら油火災の共通点

RSIとてんぷら油火災の共通点

前回のてんぷら油火災の例えを続けてみましょう。

てんぷら油火災は、過熱された油が自然発火することによって発生します。てんぷらを揚げるための適温は180度前後。一方、油が自然発火して炎が上がる温度は360?370度くらいですが、300度前後に達すると、炎の前にまず白煙が上がり始めます。その場にいればこの段階で異常に気づくのですが、火災になるのはほとんどが「短時間だからと油断し、油を火にかけたままでキッチンから離れていた」というケースです。

消火には濡れタオルや蓋を鍋にかぶせて空気を遮断する方法が有効ですが、同時にガスの火を止め、鍋をしばらく放置して油の温度を下げることが重要なポイント。油が冷める前に蓋を取ると、酸素に反応してまた油が燃え上がってしまいます。

RSIの場合、痛みやしびれなどの辛い症状は発火したてんぷら油の炎に当たります。しかしてんぷら油火災と同様、痛みが始まる前には前回書いたような前兆という煙がかなり出ているはず。その段階ですぐガスの火を止めていれば火災は防止できるのですが、「納期が目前なのでもうひと踏ん張り」と煙を無視して作業を続けたら本格的な痛みが始まってしまった、というのがよくあるパターンです。

そこであわてて医者に行って診断を受け、治療を始めるのですが、この治療は痛み対策、つまり濡れタオルを鍋にかけて消火する作業に当たります。ガスの火まで止めてくれるわけではありません。RSI患者に「治療を受けているのに効かない、治らない」とか「治療して一度は痛みが治まったものの、また再発・悪化してしまった」という経験が多いのは、痛みの根本原因を取り除く対策が不十分なためです。油の温度を下げるという重要なステップを怠り、濡れタオルをかぶせた後もガスの火をそのままにしていたり、火が消えたからと安心してガスの火を点けたりすれば、また炎が上がっても不思議ではありません。

RSI対策の基本的な考え方

RSIの痛みの原因、つまり油の過熱に当たるのは、コンピューター作業による慢性的な筋肉疲労の蓄積です。そしてRSI対策のアプローチは、現在筋肉疲労がどのくらい蓄積されているのか、つまりてんぷら油の温度がどの程度上がっているのかによって変わってきます。

(1)毎日長時間コンピューターを使っているが、今のところ特に気になる兆候はない場合

対策の主眼:慢性筋肉疲労の予防。

まだてんぷら油の過熱には至っていません。しかし、毎日仕事で長時間コンピューターを使っているということは、ガスの火に鍋をかけて油を熱しているわけですから、何かのきっかけで過熱状態になる危険はあります。最も効果的なRSI対策は予防です。自分は大丈夫と油断せず、毎日の作業による筋肉疲労を蓄積させないよう予防に努めましょう。

(2)本格的な痛みはないが、しつこい肩こり、手や腕の疲労感や不快感などの前触れ症状がある場合

対策の主眼:慢性筋肉疲労の軽減。

てんぷら油の温度が上がりすぎて煙が出てきている状態ですが、自然発火する前にガスの火を止めれば、火災を防ぐことができます。RSIの発症を防ぐため、今すぐに筋肉疲労の軽減対策を始めましょう。「仕事が一段落ついたら」などと先延ばしにしないことが重要です。

(3)本格的なRSIの症状がある場合

対策の主眼:①痛みの軽減と疲労損傷した軟組織の休養。②筋肉疲労再蓄積の防止。

本格的なRSIの症状がある場合

過熱したてんぷら油が自然発火して燃え上がった状態です。消火を行うと同時にガスの火を止め、油の温度が下がるまで放置する必要があります。医師の診断を受けて治療を開始しましょう。また、過労で損傷した軟組織が自己修復できるよう、患部をしっかり休ませることも大切です。

強い鎮痛剤を常用しながらフルに仕事を続けるのは、濡れタオルをかけた鍋を熱し続けるような最悪の対応です。再発や慢性化を防ぐためには、一時休業や仕事の大幅カットもやむを得ないと考えてください。治療の効果が上がって痛みなどの症状がなくなったら、今度は筋肉疲労が再び蓄積しないよう、疲労予防対策に努めます。

筋肉疲労のメカニズム

なお、RSIの原因となる慢性筋肉疲労が起きるメカニズムには複数の側面があり、対策の際にはそのすべてを考慮する必要があります。

(1)反復動作

RSIという名称が”Repetitive strain injury”(反復性過労障害)の略であることからもわかるように、コンピューター作業における動作の反復はRSIの大きな要因です。指や手、腕を動かす筋肉は比較的小さいため、脚などの大きな筋肉に比べると特に過負荷になりやすいのです。反復動作の代表例はキーボード入力でしょう。フルタイムの翻訳者なら、1日のキーボード打鍵数は万単位になることも珍しくありません。また、マウス入力の多いソフトを使う場合、片手の人差し指に動作が集中するため、過負荷のリスクも高まります。

(2)静的負荷

同じ動作の繰り返しによる筋肉疲労というメカニズムは分かりやすいですが、ではボタンを長押しするという動作はどうでしょうか。動作の反復はありませんが、筋肉はボタンに圧力をかけている間ずっと緊張状態を続けています。この緊張状態は筋肉への静的負荷と呼ばれており、RSIのもうひとつの要因です。コンピューター作業での代表例はマウスのドラッグ&ドロップです。クリックする回数は少なくても、ボタンを長押しする作業が多い場合、かなりの負担になります。

また、コンピューターを使う時の姿勢も、静的負荷の要因として重要です。

コンピューター作業中は、無意識のうちに背中や肩を丸めたり、首を突き出してディスプレイに顔を近づけたりしていることがよくあります。人間の体は直立歩行を前提とした構造になっており、このような体にとって不自然な姿勢を維持するためには、首や肩などの筋肉が常時緊張を強いられます。ディスプレイを斜め前に配置して常に首をひねって見ていたり、キーボードの配置やサイズが体に合っていないために手首を不自然に曲げた状態でタイピングしている場合も、静的負荷がかかります。

(3)連続時間

腹筋運動を一気に100回行った場合と、30回を1セットとして1日に4セットやるようにした場合を比較すると、30×4セットの方が合計回数は多いですが、一気に100回連続の方がきついですよね?これと同じことが、コンピューター作業による反復動作や静的負荷についても言えます。かける負荷の合計量は同じでも、休憩を挟んで筋肉を休ませるか連続で負荷をかけるかで、筋肉の疲労度に差が出るのです。

Evolution: Somewhere, something went terribly wrong
Evolution: Somewhere, something went terribly wrong.
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次回からは具体的な対策の話に入りたいと思います。

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