【連載 第3回】一筋縄ではいかないRSI治療
RSIの前触れ
前回書いた通り、RSIはひとつの疾患ではなく、「コンピューター作業など(※注/右の「参考情報」を参照)手の使い過ぎによって手や腕、肩、首などに生じる疾患」を総称する言葉なので、一口にRSIと言ってもその発症個所も症状もさまざまです。しかし、いずれの場合も過負荷による軟組織の疲労損傷が要因なので、本格的に症状が出てくる前に、疲労の蓄積が予兆としてあらわれるのが普通です。例えば、
- 肩こりがひどくなってきた
- 首や肩の関節が以前より固くなり、思うように回せない
- コンピューター作業していると手が冷たくなってくる
- コンピューター作業の後、指が固まった感じがして曲げ伸ばししにくい
- 腕の疲れがとれない
- 握力が無くなった感じや腕がだるく重い感じがする
- 手を使ったり物を持つのがおっくうになった
- 手が痺れたり、感覚が麻痺している感じがある
- しばらく作業していると、腕や手に痛みを感じる
こうした症状が何カ月か続いていても、最初は一晩寝れば楽になるので、単に仕事疲れと思っていた。気づいたらいつの間にか症状が朝まで残るようになり、あるいは痛みが始まるのが早くなっていた。それでも忙しいからと頑張っていたら、ある日急に痛みがひどくなってしまい、医者に駆け込んだ…。よくあるパターンです。
RSIの診断
医者に行くと、まずは症状を確認し、診断のため検査をします。1型RSIでは明確な症状が特定箇所にあるので、例えばドケルバン病ならフィンケルシュタインテスト、テニス肘ならトムゼンテスト、手根管症候群ならファーレンテストなど、簡単なテストで確認が可能です(写真参照)。
フィンケルシュタインテスト(Finkelstein’s test):
親指を握りこんで拳を作り、小指側に向かって横に曲げる。手首の親指側に強い痛みが出るようならドケルバン病の可能性あり。
トムゼンテスト(Thomsen’s test):
腕を真っ直ぐ伸ばした状態で、手を押し下げようとする抵抗に逆らいながら手を甲側に上げる。前腕上側に痛みが出るようならテニス肘の可能性あり。(自分でやるよりも、他の人に抵抗をかけてもらう方がテストしやすいです。)
ファーレンテスト(Phalen’s test):
肩の高さで両手の甲を合わせた状態を1分ほど保つ。指先のしびれなどの症状が強まるなら手根管症候群の可能性あり。
他の疾患の可能性がないかを確認するため、血液検査やX線撮影などを行う場合もあります。なお、RSIそのものは軟組織疾患なのでレントゲンには写りません。X線撮影をするのはRSI以外の疾患である可能性を除外するためです。血液検査は、関節リウマチの可能性を確認するために行います。
症状から考えられる疾患のどれにも当てはまらず、血液検査やX線撮影でも異常が見つからない場合は、症状や仕事の内容などから総合的に判断して、頸肩腕症候群(2型RSI)という診断を出すことになります。歯切れの悪い診断ですが、「どの疾患にも当てはまらず診断がつかない」というのが2型RSIの特徴であるため、どうしても消去法による所見になってしまうのです。全身のトリガーポイント(圧痛点)や打痛点の分布確認が診断に有効とも言われていますが、特にトリガーポイントが確認できないタイプもあるのでやっかいです。中には「どこも悪いところはないから、ただの頸肩腕症候群だよ」などという言い方をする整形外科医も残念ながらいる、という話を聞きました。
1型RSIの治療
1型RSIの場合は、診断された整形外科疾患のスタンダードな治療法を適用することになります。具体的な内容はもちろん疾患によって違いますが、1型RSI疾患では軟組織の炎症による痛みが主症状であることが多いので、炎症と痛みを抑えて修復を促すという治療方針になります。具体的には、
- 患部を休ませる(痛みの原因となった作業を控える)
- 患部を冷やす(アイスパック、湿布など)
- 消炎効果のある鎮痛剤の使用(内服または外用薬)
- 低周波治療器による電気療法
- 患部のストレッチやマッサージ
などがあり、またテニス肘や手根管症候群の場合、専用のバンドを巻いて患部を固定すると痛みが軽減する場合もあります。
これだけでは効果がない場合や症状が重い場合は、炎症患部へのステロイド注射がよく使われています。ステロイド注射は人によって効果に大きな違いがあり、また繰り返すと効果がどんどん減っていくため、2?3回の注射後も改善しない場合、最後の手段は手術となります。腱鞘炎であれば腱鞘切開、手根管症候群なら手首の靭帯切開、テニス肘の場合は伸筋筋膜切開などです。特に手根管症候群の場合、手術の効果が比較的高いため、治療の初期でも手術を勧められることがあります。
2型RSIの治療
2型RSI(頸肩腕症候群)の場合、患部がはっきり特定できないことが特徴なので、治療は長期休養と痛みの軽減が中心になります。痛みのために体が緊張し、それがさらに痛みを誘発するという悪循環になっている場合が多く、また、慢性痛のために中枢神経がさまざまな刺激に対して過敏になり、痛みの原因がなくても痛みを感じるようになる現象も知られており、痛みを抑え、体をしっかり休ませることで自己修復機能を促します。
痛みに対する治療法としては、抗炎症鎮痛剤(内服薬・外用薬)や筋弛緩剤の他に、抗うつ剤もよく使われます。抗うつ剤は睡眠を助ける他に鎮痛効果もあるのですが、人によって薬との相性があり、また急に服用を止めると強い副作用が出ることがあるので、使い方に注意が必要です。
投薬治療の他には、鍼や低周波治療器を使った電気療法、血行を促進する温熱療法なども使用されています。また、局所麻酔を使って痛みを抑える星状神経節ブロックやトリガーポイント注射などの方法が使われることもありますが、効果は人によって大きく異なり、麻酔薬使用の危険性も無視できません。
RSIは治るのか?
RSIは1型・2型を問わず慢性化してしまうと治りにくく、治療を受けて一度は痛みがなくなってもまた再発してしまうケースがとても多いのです。
私の経験についてお話ししますと、投薬、テニス肘バンド、ストレッチやマッサージ、低周波治療、ステロイド注射と一連の治療を試したものの効果がなく、ついに外科手術に踏み切りました。手術後は約1カ月間会社から病欠を取り、リハビリ終了後に職場復帰しました。その段階では痛みは完治。数年ぶりにまったく痛みのない生活を満喫しました。復帰した職場では1カ月間でたまった仕事の山が待っていましたが、痛みがないので張り切ってバリバリと片づけていきました。ところが、数カ月後にはまた痛みが戻ってきてしまってがっかりすることに・・・。
その後、左腕にも同じテニス肘の症状が出るようになり、数年後には首を寝違えたような痛みと腕のしびれも始まり、こちらは軽度の頚椎椎間板ヘルニアと診断されました。せっかく完治したと思ったのに、以前にも輪をかけて症状が悪くなってしまったのです。
今考えると、問題は治療後に以前と同じ仕事に戻り、以前と同じように作業したことにありました。しかも痛みがなくなって作業が楽になったので、休業中に溜まっていた仕事をこなすため、それまで以上に腕を酷使してしまったわけです。
再発してからRSIについて情報を集めてわかったのは、「治療するだけではだめだ」ということでした。治療を受けながら今までと同じように仕事をするのは、例えてみれば強火にかけたてんぷら油が発火して火事になった時に、ガスの火がついたままの状態で消火しようとするようなもの。火が消えても油の温度を下げなければまた発火してしまいます。そして痛みがなくなったから休んだ分を取り返そうと頑張るのは、火が消えたからと安心してガスの火をさらに強くするような行為だったのです。
では再発ループを断ち切るにはどうすればよいのでしょうか? 次回に続きます。