コンピューターで仕事をする人のためのRSI対策ガイド 【10】

コンピューターで仕事する人のためのRSI対策ガイド 肩こり、腱鞘炎、頸肩腕症候群…仕事を続けるために知っておきたいこと

【連載 第10回】連続作業時間について考える

これまで、慢性筋肉負荷の3つの要因のうち、静的負荷と反復動作について検討してきました。静的負荷についてはデスク、チェア、キーボード、マウスを使う姿勢から緊張を取り除く方法、反復動作については省力化のヒントを利用して入力動作をカットするアプローチについて見てきました。

今回は第3の要因、連続時間の問題について考えます。

作業ペースのコントロール

まずここで、アンケートに回答を寄せてくださったRSI経験者C・Kさんの体験談を紹介させてください。

C・Kさんの体験談(2014年12月)

最初に発症したのは2006年5月です。洋書の卸販売の会社で書籍のISBNコードを1日中PC入力する仕事をしていました。ISBNコードはほとんどが数字で右手の入力ばかりが多く、仕事を始めて1カ月くらいで右腕がだるくしびれたり指が痛い状態になりました。整形外科に行き腱鞘炎だろうということで湿布や塗り薬をもらいましたが回復せず、派遣社員でしたのでそこの仕事は次の契約は更新せずに4カ月で辞めました。

その後派遣で、前ほどPC入力の多くない貿易事務の仕事に就き、その契約終了後に、今度は2007年5月に正社員で貿易事務の仕事に就きました。そこでの仕事は電卓での計算や、メール、社内システムの入力で、また腕や指の痛みが再発しました。整形外科に行っても無駄かと思い今度は鍼灸院に通い始めました。2~3週間に1度の治療で仕事を続けていましたが、諸事情でその会社は2012年1月に退職しました。

作業ペースのコントロール
▲写真はイメージです。

2012年7月から派遣で貿易事務の仕事に就き、やはりメールや社内システムの入力でPCは使用していましたが、1年くらいは鍼に通わなくても大丈夫なくらい普通に仕事ができていました。しかし2013年7月に急に右腕がしびれて腕が上げにくい状態になりました。また鍼治療をしながらその後1年は普通に仕事できていたのですが、2014年7月に急に仕事中右腕が痛くなり、鍼治療でも良くならず7月末で勤務を終えました。

6月~7月にかけて仕事がとても忙しく、あまり残業したくなかったため、ろくに休憩も入れずに仕事をしており体全体の疲れもとても感じていました(今思えばこれがまずかったと思います)。仕事ではノートパソコンを使用していましたので、姿勢が前のめりになっていたことも原因だと思います。人間関係などのストレスも大きく、始終筋肉が緊張して硬くなっている状態だったと思います。

正社員の時は同じ仕事をしている同僚と仕事の分担をして負担を減らしてもらえたこともあったのですが、やはり派遣は契約通りの仕事ができなければ勤務終了になってしまいます。

現在、芝大門クリニックでレーザー治療を受け、また鍼灸院でも治療を受けています。

私は鈍感なのかもともと自分で肩凝りは自覚しておらず、腕の痛みやしびれだけ感じていました。仕事を辞めてからは自分でも肩の凝りや重さを感じるようになり、それまでの自分とは全く違う自分になってしまったような感じです。もっと早くに肩のほうの異常も感じていたら、運動するとかいろいろ対策できたかもしれません。

首の凝りがひどいせいか、耳鳴りや耳がふさがった感じがして少し左耳の聞こえが悪くなりました。先日、耳鼻科に行ってきましたが、検査をしてみるとやはり左耳の低音難聴になっていました。凝りで血液の循環が悪くなると耳にも影響が出るそうです。

現在はまだ仕事はしておりません。そろそろ何か始めようかなと思うのですが、ひとつ良くなると他のところが悪くなったりで、なかなか仕事に就けない状態です。

この体験談からわかるのは、作業ペースを自分でコントロールしにくい状況にいる時に症状が悪化するというパターンです。

作業ペースのコントロールとは、例えば「PC入力が続いた後はしばらく立ち仕事に切り替える」とか「腕が疲れてきたからちょっと休憩する」といった融通が利くか、ということです。C・Kさんの場合は、派遣社員だったために業務内容が限定的に規定され、また健康管理責任が曖昧になりがちな環境にいたことが、症状悪化の大きな要因でした。しかし「仕事が忙しいから休む暇がない」という状況は、比較的自由に仕事の仕方を決められるはずのフリーランス翻訳者でもよく経験することです。腕がだるいけれど納期が迫っているから「あともう少し」とつい無理をしたら、急に我慢できない痛みが始まってパニック、というのはよくあるケース。納期に追われて作業ペースのコントロールが犠牲になってしまうパターンであり、根は同じです。

筋肉疲労の仕組み

日常生活で体を動かすと筋肉が伸縮し、筋肉組織は緊張と弛緩を繰り返します。筋肉には多くの毛細血管が走っており、この筋伸縮作用がポンプの役目を果たして血行を促し、筋肉組織に酸素が運ばれ、老廃物が排出されます。

ところがコンピューター作業では、静的負荷と反復動作による筋肉の緊張状態が長時間続きます。筋肉が弛緩されず緊張が続くと、血管が圧迫されて血流が阻害されます。その結果必要な酸素が筋組織に供給されなくなり、酸欠状態になって老廃物が生成されます。血行不良状態では老廃物が排出されにくく、蓄積した老廃物が神経を刺激して痛みや炎症を引き起こしてしまいます。

従って、RSIの発症や症状の悪化を防ぐには、作業ペースをコントロールして休憩を織り込み、筋肉の酸欠状態を解消していくことが重要になります。

効果的な休憩の取り方

RSI対策という見地からは、酸素の欠乏や老廃物の蓄積が進行しないうちに血行を促進することがポイントなので、1回の休憩の長さよりも休憩を取る頻度が重要です。2種類の休憩を以下のように組み合わせるのが効果的だと言われています。

  • ストレッチ休憩
    1時間毎に5~10分程度の休憩を入れ、席を立ってストレッチなどで体を動かし、疲れた筋肉を休める。ファイリング、整理整頓などコンピューターを使わないでできる作業があれば、それをストレッチ休憩代わりに行うのも可。在宅フリーランスならちょっとした家事を挟むという手もあります。
  • ひと息休憩(小休止)
    10~15分おきに数十秒くらい作業を中断し、キーボードやマウスから手を離して力を抜き、深呼吸や肩回しなどで筋肉の緊張を意識的にゆるめる。この際に手や腕、肩の緊張度や疲労度、座っている姿勢などを確認してください。作業ペースを効果的にコントロールするには、まず自分の体の状態を自覚することが大事だからです。

連載第5回で紹介した厚生労働省発行のVDT作業ガイドライン※でも、休憩について同様のガイドラインを定めています。
※外部サイトにリンクします。

休憩を確実にとるには

休憩を確実にとるには

ストレッチ休憩やひと息休憩を入れることが大切と頭ではわかっていても、実行するのはなかなか難しいものです。仕事中は納期やノルマに追われて休む暇も惜しいことも多く、また仕事に集中して「乗っている」状態では疲労の自覚がなく、時間が経つのも忘れてしまうことがしばしば。現在痛みがない人にとって、1時間毎に休憩、15分毎に小休止というパターンを自発的に守るには、相当な意志の力が必要です。

私が以前所属していたRSI互助メーリングリストでは、休憩対策として、

  • 仕事に使う資料やツールをわざと席から手が届かないところに置く
  • クッキングタイマーをかけて手の届かないところに置く
  • トイレが近くなるよう水やお茶をたくさん飲む

といった手段が紹介されていました。

しかし、仕事の作業をコンピューターで行っているのですから、いちばん簡単なのは、休憩管理ソフトウェアを使ってコンピューター上で休憩を強制することです。

休憩管理ソフトウェア

RSIの問題が注目を浴びるようになって以来、休憩管理のためのソフトウェア(break timer)がいろいろ開発されています。ここでは2つのソフトを紹介します。

Workrave

現在のところ日本語版が開発されている唯一の休憩管理ソフトがWorkraveです。ストレッチ休憩と小休止のタイマーの間隔と休み時間の長さ、そして1日の作業時間限度を設定することができます。タイマーは時間を単純計測するのではなく、入力作業を行っている時間だけを計測するので、コンピューターを使っていない時間はカウントされません。休憩中はコンピューターに入力できなくなり、スクリーンにはストレッチ体操の動画が表示されます。手を離せない作業中に休憩の時間が来てしまった場合は、休憩を先送りすることも可能です。GNUライセンスで提供されているフリーウェアで、Windows版とUNIX版があります。

日本語版リーフレット:http://www.workrave.org/media/leaflet/pdf/leaflet-ja.pdf ※
日本語版ダウンロードサイト:http://workrave.softonic.jp/ ※
※外部サイトにリンクします。

RSIGuard

私が愛用しているソフトです。Workraveと同様、ストレッチ休憩とひと息休憩のタイマーや作業時間限度を設定できます。ストレッチ休憩では体操のビデオが表示され、ひと息休憩では体の状態を確認するためのアドバイスがポップアップ表示されます。その日の入力作業量をレポート出力することもできます。

Workraveとの大きな違いは、前回触れたように自動クリック機能が搭載されていること。ポインターを休める場所に気をつけないと誤クリックの危険があるので、慣れが必要ですが、使い慣れると手放せません。ポインターの静止から自動クリックまでの間隔は好みのタイミングに調整でき、自動クリックは不要という場合はオフにすることも可能です。Windows、Linux、Macで動作します。残念ながら日本語版は需要がないため未開発とのこと。有料ソフトですが、45日間の無料試用期間があります。

ホームページ(英語):http://rsiguard.remedyinteractive.com/ ※
※外部サイトにリンクします。

今回のキーポイント:
定期的な休憩を仕事のパターンに組み込んで、体の状態に耳を傾けながら作業ペースを調整する習慣づくりを。

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