英国翻訳通訳協会の日本語ネットワークJ-Netは、年2回ワークショップを実施しています。今年の夏季ワークショップは7月27日(土)にロンドンで開催されました。日頃在宅フリーランスとして働いていると、職場で同僚と交流する場がないので、翻訳者仲間と顔を合わせるこの機会を毎回楽しみにして参加しているのですが、今回は単に参加者というだけでなく、講演者として参加しました。
講演することにしたきっかけは、昨年9月に受けたカーボンリテラシートレーニングです。認定を受けるにはコースで学習するだけでなく、具体的な行動計画を2つ提出しなければなりません。ひとつは個人行動、もうひとつはグループ行動です。
個人のプランの方は、以前から進めていた我が家の脱炭素化計画の最終ステップとして、暖房・給湯をガスボイラーからヒートポンプに交換し、オール電化住宅(兼事務所)にするということですんなり決まりました。
しかし問題は「グループ行動」。在宅フリーランスとして個人で仕事をしており、同僚や従業員がいるわけでもありません。顧客やプロジェクトマネージャー、チェッカーなど同じプロセスの中で仕事をしている人達も、職場も日本や英国各地に散らばっていて、やりとりはコンピューター経由。直接会ったり話したりすることはなく、仕事以外での接触もありません。そんな状況で一緒に行動できるグループとは?と悩んでしまいました。講師とも相談の末、最終的に「ネットワークでつながりのある日本語翻訳者を対象に、CPDイベントの一環としてカーボンリテラシーに関して講演する」という計画に落ち着きました。
そこで、ITI(英国翻訳通訳協会)の日本語ネットワーク、J-NetのCPD担当役員に連絡して、「次回のワークショップでサステナビリティ翻訳かカーボンリテラシーに関する講演をしたいんですが、どちらが良いですか?」と問い合わせたところ、「両方とも面白そうだから両方について話してくれませんか」という答えが返ってきました。
というわけで、7月にロンドンで開催されたJ-Net夏季ワークショップで長めの枠を確保してもらい、「Sustainability Translation and Introduction to Carbon Literacy」と題して話をしました。
実務翻訳者が請け負う仕事は常に、世の中で起きていることを反映しています。だから、国連の持続可能な開発目標(SDGs)やパリ条約の気候目標達成に向けて各国政府や企業、市民団体などの取り組みが世界中で進む中、Jネットに所属する翻訳者にもこうした取り組みと直接・間接的に関連する文書を翻訳する仕事に関わる機会が増えてきているという印象は以前からありました。そこで、講演ではこうした個々のプロジェクトが国際的な動きの中のどこにつながってるのか、点と点を線でつないで全体像を描くこと、個人で手がける仕事がその中でどんな意味を持っているのかを可視化し、個人の小さな力でもできることがあると示すことを目指しました。
講演のパート1は「サステナビリティ翻訳とは何か」というテーマで、SDGsの枠組みを紹介した上で、どんなトピックや文書を扱うのか、どのような顧客がいるのか、この分野について専門知識を身につけるにはどこで学べば良いのかといった話をしました。
パート2はSDGの目標13である気候変動に焦点を当て、キャサリン・ヘイホー教授の「気候変動について知っておくべきこと5項目」の枠組みに沿って話をし、学習リソースとしてカーボンリテラシートレーニングに関する情報も盛り込みました。
Jネットメンバーがどう反応するか正直不安だったのですが、フィードバックはとてもポジティブな手応えでびっくりしました。これに力づけられて、また機会があればこの活動をさらに進めたいという気持ちが強まりました。お呼びがあればどこでも話したいと思っていますので、興味のある方はぜひお気軽に声をお掛けください。